俊水館道場

勝つことよりも大切なことを教えてくれる俊水館道場
金井信彦さん
平成14年の創設以来、剣道の技術だけでなく「人としての在り方」を伝えてきた道場です。剣道を通して育むのは、勝敗を超えた人間力。子どもたちが社会に出た時、自信を持って胸を張れるように。そして、いつかまたこの場所に帰ってきて、次の世代を導いてくれるような「人の循環」を育てていきたいと考えています。
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- 剣道
- 武士道精神
- 地域密着
Q.俊水舘道場を立ち上げるまでの金井さんの歩みについて教えていただけますか?
もともとは、学校の先生を目指していました。大学では体育を専攻して教員免許も取りましたが、採用試験に落ちてしまって…。
一度は母校の中学校で非常勤講師として働きながら、翌年の試験に向けて勉強していたんです。でも、その間に「本当にこれが自分のやりたいことなのか?」と迷い始めました。
そんな時に出会ったのが大工の仕事でした。
まったくの未経験から飛び込んで、現場で身体を動かす日々が始まりました。親方に「せっかく大学まで出たんだから、建築士の勉強もしてみたら」と言われて、建築の専門学校にも通わせてもらいました。
でも、心のどこかで「やっぱり人に教えたい」という思いが消えなかったんです。
ある日、父にその気持ちを話したら「やってみたらいい」と後押ししてくれて。市の職員さんを通じて紹介してもらった地域の剣道教室で、子どもたちに教えるようになったんです。
現場が終わって、夜に道場に行くという生活でしたが、それがだんだん面白くなってきて。
自分が教えることで子どもが変わっていく姿を見て、「これをずっとやっていきたい」と思うようになりました。
そうして、少しずつ自分の道場を持ちたいという気持ちが強くなっていったんです。
Q.自分の道場を持つに至ったのにはどんなきっかけがあったのでしょうか?
出稽古で訪れた一心院道場が大きなきっかけです。
強豪なのにすごく温かく迎えてくれて、稽古のあとにカレーを一緒に食べたり、先生も偉ぶらずにフラットな関係で。本当に家族のような雰囲気だったんです。
そこで「自分もこういう場をつくりたい」と思いました。屋根と床さえあればいい。貯金300万円を元手に、覚悟を決めて道場づくりを始めました。


Q.道場の建設に入って、いかがでしたか?
大工だった後輩に工事を頼んでいたのですが、途中で資金を使い込まれてしまったんです。
かなりショックでしたが、その子のお父さんが本当に誠実な方で、全額返してくれた上に「残りの工事は無償でやる」と申し出てくれて。親方からは「お金はいらない、顔を見せに来てくれればいい」と言ってもらいました。
あの言葉は今でも心に残っています。人に助けられて、道場は完成しました。
Q.そうした人とのつながりが、俊水舘という道場名にも込められているのでしょうか?
はい。道場名の「俊水」は、一心院道場の平岡俊照先生の「俊」と、茨城少年剣友会の天貝益水先生の「水」からいただきました。
どちらの先生も、自分にとって道場を始める原点となった大切な存在です。この名前を見るたびに、自分が何のために剣道を教えているのかを思い出せるようにしたかったんです。

Q.普段の稽古では、子どもたちにどんなことを意識して伝えているのでしょうか?
「試合に勝つこと」よりも「人としてどうあるか」を常に意識して指導しています。
例えば、トイレのスリッパを揃える、先生には挨拶をする、というようなごく基本的なことです。そういう姿勢が、自然とできるようになってほしい。
大会で勝つことより、「俊水舘の子は礼儀ができてるね」と言ってもらえることの方が、よっぽど嬉しいです。
Q.そういった姿勢は、一朝一夕では身につかないですよね。初心者の子たちは、どのように剣道に慣れていくのでしょうか?
最初はAコースから始まって、週2回の稽古で剣道に慣れていきます。1ヶ月の無料体験もあって、いきなり厳しくはしません。
半年ほど経って本人が希望すればBコースに進み、防具をつけて本格的な稽古が始まります。
特に「面」は重くて息苦しい。でも、それを乗り越えていくことで、精神面も大きく成長するんです。

Q.成長の過程を支えるには、保護者の協力も欠かせないと思います。どのような関わり方をされていますか?
大会の送迎やサポートはもちろん、日々の稽古への理解や応援もすごくありがたいです。
若い頃は少し距離を置いていた時期もありましたが、今は保護者とも自然に信頼関係ができていて、一緒に子どもたちを育てていく感覚があります。
保護者が安心して任せてくれているからこそ、僕も本気で向き合えるんです。
Q.今後、道場として取り組んでいきたいことはありますか?
これからは組織で指導していく体制を整えていきたいです。今までは僕1人で見てきましたが、卒業生が戻ってきて、教える側として関わってくれるようになってきました。
学校のように情報を共有しながら、チームとして子どもたちを育てていく。そんな道場を目指しています。
Q.最後に、俊水舘道場に興味を持っている親御さんにメッセージをお願いします。
まずは気軽に見学に来てください。剣道は厳しいイメージがあるかもしれませんが、うちは違います。子どもたちには礼儀や思いやり、そして自分の限界を越える経験をしてほしいと思っています。
親が全部教える必要はありません。道場という場で、私や仲間、地域の大人たちと一緒に育てていきましょう。
いつかその子の結婚式に呼んでもらえるような関係になれたら、最高ですね。
金井信彦さん、本日は素晴らしいお話をありがとうございました!