鹿行地域の医療、介護、福祉、住民をつなぐ会代表

おせっかい、でもあたたかい。ひとりじゃないと思える、地域でつくる看護のチカラ
堀内真弓さん
「できる人が、できる時に、できることをする」ことを理念とし、地域に根差した看護・支援活動を行っています。医療や介護の制度ではカバーしきれないあと1歩のサポートを、無理のない範囲で提供することで、ご本人とご家族の生活の質を高めています。
看護師だけでなく、主婦や高齢者など様々な人が関わるこの仕組みは、支援する側もされる側も「できること」を持ち寄って共に生きる新しいコミュニティの形です。
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Q.サービス名の「キャンナス」という名前にはどのような意味が込められているのでしょうか?
また、この活動を始めようと思ったきっかけについて教えてください。
「キャンナス」という名前は「Can=できる」と「Nurse=看護師」を組み合わせた言葉で「できる人が、できる時に、できることをするナース」という意味があります。
ポイントは「無理はしない」ということ。
私は訪問看護を10年ほど経験してきましたが、医療や介護の制度の中では、決まった時間・決まった処置に縛られることが多く「本当にその人の生活に必要なこと」が制度外であることも多々ありました。
でも、制度を逸脱してまでやるわけにもいかず、葛藤を抱えていたんです。
そんな時に出会ったのが、水戸のキャンナス。制度外でも「お節介ナース」たちが地域の困りごとに手を差し伸べている姿に心を打たれました。
学びを経て、「この地域にも必要だ」と確信し、口コミベースで始めたこの活動が今では2年目を迎え、多くの依頼をいただけるようになりました。
Q.活動を続ける中で、社会や地域のニーズの変化を感じることはありますか?
はい、明らかに変化を感じています。
立ち上げた当初は、医療的ケアを求められることが多いと思っていたのですが、実際には「看護師さんが来てくれるだけで安心」という依頼が多かったんです。
最近では特に認知症の方からの依頼が急増していて、1人暮らしの方など、制度ではカバーしきれない部分の支援を求められることが増えています。
看護師の存在そのものが安心材料になる、そういう役割が求められていると感じます。


Q.認知症の方へは、具体的にどのような支援を行っているのですか?
たとえば、ある認知症の方のお宅を訪問した際、お風呂に長らく入れていないとのことで支援に伺いました。でも、ご本人は「明日でいいわ」と入浴を拒否されて…。
そこでタオルで身体を拭きながらお話ししていたところ、「大きいお風呂なら行くんだけど」とポツリとおっしゃったんです。
それをヒントに銭湯を探してみたら、なんとその方が昔よく通っていた馴染みの銭湯だったんです。
連れて行くと、店員さんやお客さんが「久しぶり!」と声をかけてくれて、ご本人もポツリと記憶を思い出してとても嬉しそうにされていました。
認知症の方にとっても、心に残っている「楽しい記憶」が蘇る瞬間に立ち会えたことが、私にとってもかけがえのない経験でした。
Q.一緒に過ごす支援が多いとのことですが、地域活動の具体的な内容についてもう少し詳しく教えてください。
潮来市を中心に、車で30〜40分圏内のエリアで活動しています。
主に行っているのは、ご本人と一緒に在宅で過ごしたり、通院の付き添い、外出のサポートなどです。
たとえばご家族がお出かけしたい時、私たちが訪問して一緒にお留守番をすることで、介護を理由に諦めていたことができるようになります。
これはご本人のためでもあり、ご家族の生活を支え、豊かにする支援でもあるんです。まさに「みんなのためのキャンナス」だと感じています。

Q.支える側であるキャンナスのメンバーにはどのような方がいらっしゃるのでしょうか?
看護師だけでなく、主婦の方や地域の高齢者など、さまざまな方が活動に関わってくれています。
たとえば、月に1回開催している「認知症オレンジカフェ」に来てくださっていた70代の女性が「私にもできることがあるなら」と活動に参加してくれるようになったんです。
資格がなくても、受診の付き添いやお話し相手など、できることを一緒にしてくれています。まさに「できる人が、できる時に、できることをする」仲間です。
Q.多様なメンバーが関わっているからこそ、地域の信頼を得るために大切にしていることもあるかと思います。具体的にどんな点を意識していますか?
「できないことはできない」とはっきり伝えるようにしています。
その上で、訪問時は少しでも笑顔になってもらえるような「ネタ」を仕込んで行ったり、クスッと笑ってもらえるような関わりを心がけています。
私との関係性を見て、ご家族が安心してくださることも多くて。看護師としての専門性だけでなく、「この人となら楽しく過ごせそう」と思ってもらえることが大事だと思っています。

Q.地域看護の今後について、どのようにお考えですか?
今の制度ではどうしても限界があるのが現実です。介護保険だけでは対応できない「あと1歩の部分」を、私たちのような存在が補うことが必要だと思っています。
最近は制度外の看護師チームも増えてきました。もちろん費用はかかりますが、自分が本当に望む暮らしを実現するためには、きちんと対価を払ってでも満足感を得る、という意識の変化が今後の地域看護を支える鍵になると思います。
Q.最後にキャンナスに関心のある読者へ、メッセージをお願いします。
もし今、介護に悩んでいたり、「本当はこうしたいけど、無理だな」と我慢している方がいれば、まずは私たちに相談してみてください。できることはお手伝いしますし、必要なら他の支援先にもつなげられます。
キャンナスは、行政でも家族でもなく、でも地域のことや介護のことをわかっている存在。誰にも言えない思いを話すだけでも、気持ちが軽くなるはずです。
年を重ねることに不安を感じるのではなく「なにかあったらキャンナスがいる」と思ってもらえたら嬉しいです。
堀内真弓さん、本日は素晴らしいお話をありがとうございました!