越田水産

越田水産

昭和47年のつけ汁が語る旨さ

越田水産

戦後ゼロから始まった干物屋の歴史を今に受け継ぐ、家族経営の魚屋です。昭和47年から継ぎ足してきたつけ汁と、包丁による1枚1枚の手さばき。効率よりも、おいしさと人とのつながりを大切にしてきました。
地元・神栖市波崎の海とともに歩み、家族とともに技を受け継ぎながら、未来の食文化として干物の価値を次世代に伝えていきます。

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  • サバ
  • 干物文化
  • 無添加

Q.「越田水産」さんではどんな商品が1番人気でしょうか。また、どういった背景でこのお店は始まったのですか?

うちは主に「サバの文化干し」という干物を中心に扱っています。
ほかにも金目鯛や目光など、地元・神栖の港で揚がった魚も取り扱っていますが、やっぱり看板商品はサバですね。

歴史としては、終戦直後に祖父が東京から茨城県神栖市・波崎のこの地に戻ってきて、ゼロから干物づくりを始めたのがきっかけです。
最初は煮干しから始まり、みりん干し、そして昭和47年にサバの文化干しへと進化してきました。時代や暮らしの変化に合わせて、形を変えながら続けてきたんです。

Q.「つけ汁」は、干物づくりでどんな役割を担っているのでしょうか?

つけ汁は、魚を漬け込むための塩水のことです。
でも、うちのつけ汁はただの塩水じゃありません。昭和47年から継ぎ足し続けていて、足すのは塩だけ。
魚から自然と出る水分が混ざって、旨味がどんどん濃くなっていくんです。

普通は腐るから煮沸や塩素消毒をするんですが、うちはそれを一切していません。それでも腐らない。
検査してもらったら、48種類もの酵母や乳酸菌が住み着いていて、雑菌が増えない独特なバランスができていました。
まさに「生きた調味料」みたいな存在ですね。

Q.漬け込みに使うサバも、すべて手作業でさばいているんですよね。

はい。手でさばくことで、無駄なくきれいに仕上がるんです。
機械だと骨に身が残ってしまうんですが、包丁で丁寧に三枚おろしにすれば、中骨だけが残って、旨味のある髄までしっかり身に残せる。
実はこの髄も、つけ汁の旨味を引き出す鍵になっているんですよ。

1日に1,500枚から2,000枚を4人で手作業しています。昔は3人だったので、朝4時から夜11時まで作業していたこともありましたが、手を抜かないからこそ、味にも違いが出るんです。

Q.実際に味の違いとして、お客様の反応で印象に残っているエピソードはありますか?

1番忘れられないのは、東日本の震災後に成田で販売会をしたときのことです。
北海道出身のおばあちゃんが立ち寄ってくれたんですが「血圧が高いから濃い味は食べられない」と言っていたので、次の週に薄味の干物を特別に用意して持って行ったんです。

そしたら10枚まとめて買ってくださって「あなたの気持ちがうれしい」って。その言葉と笑顔が、今の越田水産の原点になりました。

Q.そうした出来事もあって、地元との関わりも大切にされているのでしょうか?

はい、地元とのつながりは本当に大事にしています。成田の販売会は、どんなに忙しくても最優先です。
たとえ三越から声がかかっても、そのスケジュールを優先するほどです。
イベントでのお客様の笑顔や「また来てくれたんだね」という一言がうれしいんです。
販売はただ物を売る場ではなく、人とつながる場所だと思っています。

Q.一方で全国、さらには海外への展開なども意識されているのでしょうか?

もちろんです。以前は築地からアメリカのカリフォルニアやシアトルにもサバを輸出していたんです。
でも東日本大震災の影響で、一気にその流れが止まってしまって。それでも「このサバを絶やしてはいけない」と思い、全国の販売会を回るようになりました。

最近ではANAのファーストクラスに採用されたこともあって、評価していただける場所が広がってきた実感があります。

Q.その商談のときの様子をぜひ詳しく聞かせてください。

ANA本社に、商談に伺いました。保存方法から専門的なことまで様々なことを聞かれました。
その中での「あなたにとって『無添加』とは?」という質問にはこう答えました。
「私は学があるわけじゃないけど、『無』はゼロだと思ってます。0.1%でも入っていたら、それは無添加じゃないと考えてます」と。

一瞬、空気が止まりました。でも次の瞬間、担当の方が「そんなふうに言う人、初めてです」と笑ってくれて。その数分後には契約書が差し出されたんです。
言葉じゃなく、姿勢で伝わったんだと思います。小さな干物屋でも真っ直ぐ向き合えば、大きな心を動かせる。そんな瞬間でした。

Q.一貫した姿勢が相手の心を動かしたんですね。ブランドの信頼を築いていくうえで、大切にしている価値観はなんでしょうか?

「規模より誠実さ」ですね。売上や効率よりも、目の前の1人のお客さんにどれだけ丁寧に向き合えるかが大事です。
だから、どんなに大きな相手とお仕事させていただいても、最初に干物を買ってくれたおばあちゃんが、今でもうちの1番のお得意様ですと伝えています。

相手が誰であっても、その優先順位だけは崩したくない。ビジネスは、人と人の信頼関係でできているものだと思っています。

Q.これからの越田水産としての目標や取り組みがあれば教えてください。

1番は、干物を「未来の食文化」として育てていくことです。
オンライン販売にももっと力を入れて、全国のお客様にこの味を届けていきたいですし、観光資源としての工場見学なども視野に入れています。
伝統を守りながらも、今の時代に合った方法で届ける。それが今後の挑戦です。

Q.それでは最後に、越田水産の干物をまだ食べたことがない方へ、メッセージをお願いします。

どんなに言葉を尽くしても、最後は食べてみてもらうのが1番です。
食べたら、きっと笑顔になりますよ。それが私たちの干物です。

– 越田水産の名物サバをいただきました!  –

焼き始めると脂がじんわり浮かび、香ばしい香りが広がります。
皮はパリッと焼けて、中はふっくら。ひと口食べると、塩気はまろやかで、サバの旨味がじわっと広がります。
青魚特有の臭みがなく、後味は驚くほどすっきり。何十年も継ぎ足されたつけ汁の深い味わいが感じられ、焼き魚の概念が変わる1枚です。
ご飯にもお酒にも合い、冷めても味が落ちないのも嬉しいポイントです。

越田水産さん、本日は素晴らしいお話をありがとうございました!

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