FARMER`S PALLET WINDS BASE

農業を「仕事」に変える覚悟がここにある
飯田さん
この農場は、ただ野菜を育てて販売する場所ではありません。農業を「人と人、人と地域、人と未来をつなぐ手段」と捉え、教育・福祉・エネルギー・医療など、様々な分野と連携しながら地域に根ざした活動を続けています。環境への取り組みとしてソーラーシェアリングやバイオマス事業にも挑戦しています。
地域で暮らす人々が、農業を通じて誇りを持ち、支え合いながら生きていける。そんな未来を目指して、今日も畑に立ち続けています。
URL:ホームページMap:暮らす
- 地域共生
- ピーマン
- 宿坊
Q.まずは、 WINDS BASEさんを立ち上げることになった背景について教えていただけますか?
WINDS BASEを始めるきっかけは、私が父の跡を継いで農業を始めたところまで遡ります。
31歳で地元に戻り農業を始めたものの、大きな台風でハウスが全滅しました。多額の費用をかけて再建したものの、「また同じことが起きたら…」という不安が常につきまといました。
そんな中で東日本大震災が起こり、茨城県産のピーマンも含め農産物が売れなくなりました。
個人で数千万円の損害を受けたこともあり、「個人で農業を続けるリスク」と「自分たちの農産物は自分たちで売る必要性」を強く感じ、仲間たちと共に直売所として WINDS BASEを立ち上げました。
Q.立ち上げ当初はどのような体制だったのでしょうか?
最初は地元の農家仲間で「WINDS BASE出荷組合」を作り、30軒ほどの生産者とともに直売所を運営していました。
とはいえ、この地域はピーマンが中心の産地なので他の作物を揃えるのが非常に難しく、品揃えに課題を感じていました。
自社でもスイカやメロン、ジャガイモなど多様な作物を育てて補っていましたが、他の生産者の方々が多品目栽培に踏み切るのは難しく、売上も安定しない時期が続きました。


Q.そうした中で、経営や人材の体制も変わっていったのでしょうか?
はい、時間が経つにつれて他の役員メンバーも次第に抜けていき、最終的に私ひとりが残りました。
その後、販売体制の見直しも必要になり、ピーマンを選別・袋詰め・発送する「選果場」としての役割を強化しました。
加工品製造も始め、飲食業・漬物製造業の許可を取得し、厨房を整備してピクルスや惣菜なども手がけましたが、来店客が少なく、結局は効率面から販売を縮小しました。
Q.現在の営業形態はどのようになっているのでしょうか?
今は「直売所」というよりも「選果場に野菜を買いに来る場所」という位置づけに変えました。営業時間も定めず、作業中に来てくださる方1人ひとりに、丁寧に販売するスタイルです。

Q.新体制での運営を始めたばかりとのことですが、今後の課題や注力していることはありますか?
大きな課題はやはりピーマンの病気です。TSWVというウイルスが広まり、ハウスごと全滅するケースも増えてきました。
高温障害ではなくウイルスによるもので、虫が媒介するため防ぎようがありません。農薬も100%の効果がなく、根本的な対策が難しいのが現状です。
病気による収量減が続く中、他の生産者との連携や新たな作物への転換も模索しています。
Q.ピーマンの収量が厳しくなっている中で、行っている取り組みの成果はどうでしょうか?
実は、売上は増えているんです。
農福連携でのしいたけ栽培や、民泊の運営による体験型のサービス展開が大きいですね。
民泊施設では農業体験も組み込んでおり、東京からも訪れる方もいます。また、収穫体験や学校との連携で小学生にじゃがいもやさつまいもの収穫を体験してもらう取り組みも10年以上続けています。
こうした地道な教育的活動が、農業の価値を伝える手段となっていると感じています。

Q.農業体験や教育活動が軸になっているんですね。その上で、今後さらに進めていきたい取り組みはありますか?
1つは「薬草」の取り組みです。漢方の大手「ツムラ」さんとのつながりもあり、薬草の栽培・選別を福祉法人と連携して行っています。
薬草では根だけを使うので、捨ててしまう上の部分を活用して薬膳スープを作る計画もあります。
また「農業×宿坊」やスタンプラリーなど、地域と連携した企画にも取り組んでおり、農地を活かした新しい体験型農業のモデルをつくっていきたいと思っています。
Q.農業を「生産」だけでなく「体験・教育・健康」まで広げているのが印象的です。こうした発想の原点には、どんな背景があるのでしょうか?
私はもともと電気系の学校を出ていて、自動化や機械化が得意でした。
配線や制御は自分でできるので、7年ほど前からソーラー発電と蓄電池を導入し、イチゴの自動潅水や換気まで再エネでまかなっています。
こうした技術の導入によって手が空き、その時間で次に何をやるかを考える。常に「農業の可能性」を広げることを意識してきました。
Q.挑戦の先に、どのような地域の未来を描いていますか?
農作物を作って終わり、ではなくて、農業を入口に、教育や福祉、観光、エネルギーといった分野とつなげていくことで、新しい地域の産業や雇用を生み出していきたいと思っています。
地域の人や企業、行政とも連携しながら、まち全体が元気になっていくような仕組みをつくっていく。それが、私の目指している姿です。
Q.最後に、これから WINDS BASEを訪れる方や農業に関心がある方へのメッセージをお願いします。
農業は決して楽な仕事ではありません。でも土に触れ、作物を育て、その大変さを知ることで、食べ物の価値が変わるはずです。
WINDS BASEでは、農業体験や加工品販売など、農業の「今」を感じられる場を提供しています。
ぜひ1度訪れて、農業の奥深さと私たちの取り組みに触れていただけたら嬉しいです。
飯田さん、本日は素晴らしいお話をありがとうございました!