沼田副住職
澁谷社長とは元々、おいしいものが食べられる都内で住職と話そうとしていたんですけど、茨城にも良いところはけっこうあるんです。
澁谷社長
日本はどこへ行ってもおいしいですよ。茨城は、所得ランキングでも全国第3位でお金があるんで、営業すると面白いですよね。
北関東は豊かなんですよ。東京に近くて便利だし、自然や広さがあって所得も東京とあんまり変わらない。群馬も8位ぐらい豊かなんでこれ以上なにかやろうっていう感じにならないです。
東京から見ると群馬も地味に見えるかもしれませんが、全国的に見るとかなり上位だと思います。最下位ランキングに影響しているのは、知名度だけではないでしょうか。知名度が低い理由として、東京の人が観光地を選ぶ際、どうしても北海道のような大きな観光地を選びがちです。旅行で行くなら「日帰りで行ける場所」をわざわざ候補に挙げることは少ないですよね。
群馬や茨城は、願望としての観光地ではなく、日常的に行ける場所として認識されてます。さらに言えば、東京の人は「群馬」という県名を意識せずに、たとえば箱根なら「神奈川県」ではなく、直接「箱根」を目的地としています。
同じように、茨城県を知らなくても、ひたち海浜公園や水戸偕楽園の名前は知っている人が多いですよね。近すぎるがゆえに、県そのものを意識しないという現象が起きている。
阿蘇に行くのには熊本空港に降りないといけないから熊本を意識するけど、別に水戸偕楽園に行くのに茨城空港に降りないじゃないですか。
沼田副住職
茨城は一瞬で行ける場所なので、どうしても県名が地味に感じられてしまうのではないでしょうか。でも、県が目立つ必要はないと思いますよ。
自分は熊本で農業をしていた時期があったんですが、同じ作物を作って東京に出荷しても、茨城や千葉の農家と比べて手取りが大きく違いました。茨城や千葉の農家は手取りが60~70円ほど残るのに対して、熊本の農家は送料を引くと30円ほどしか残らないんです。
千葉や茨城は東京に近い分送料が安く、鮮度も保てるので、全国の農家に比べて圧倒的に有利です。それに、関東平野は広くてどこでも作物が作れる。こうした条件の違いは大きいですね。
坂本社長
農家あるあるなんですけど、次の世代が継ぎたがらないんですよね。
それで親が「継いでくれたら好きな車を買ってあげる」と、レクサスなんかを買い与えたりすることも多いんですよ。
沼田副住職
農家にはそれだけの収益があるからできることなんですよね。
澁谷社長
大学時代の同級生が誕生日に、当時新発売されたソアラを買ってもらったことがありました。ソアラは今のレクサスの原型で、当時の若者にとっては高級スポーツカーですよね。
600万円くらいしたそうで、今の感覚で言うとランボルギーニを買ってもらうようなものですよ。
当時、肉牛は1頭400~500万円くらいで売れていましたから、少し稼げばソアラが買える計算なんですよね。
「誕生日プレゼント、何が欲しい?」と聞かれたら「牛が欲しい」と言いたくなるくらいですよ。
ところで、この辺りには牧場は多いんですか?
坂本社長
昔は養豚場が多かったんですが、匂いの問題があって茨城からは数が減ってしまったんです。
澁谷社長
牛は元々、関東ではあまり生産されていなかったんですよね。
牛肉は関西、豚肉は関東という食文化の違いがあるので、東京では豚肉が中心、一方で関西では牛肉が主流になっている。
自分は12歳まで大阪に住んでいてその後関東に来たんですが、一番違いを感じたのは、大阪では「肉」というと牛肉しか指さないことです。豚は「豚」、鶏は「かしわ」と呼びます。「肉」と言えば牛肉のことで、それ以外を「肉」と言うのはタブーのような感覚がありましたね。
関東では豚でも鶏でも「肉」と呼びますが、大阪では豚肉を使っていたら「肉まん」ではなく「豚まん」と言います。だから、「肉まん」と言うと「お前ら何を嘘ついているんだ」と笑われることもあるんです。
話は変わりますが、茨城空港はなかなか利用人数が増えないようですね。
安重先生
大阪に行くときは茨城空港を使ったほうが結構安いですよ。
関西方面に行くなら茨城空港を利用したほうがかなりお得ですし、駐車場も無料なんです。
大阪まで茨城空港を使うと1万5~6千円で行けるんですよね。最近は若い頃と違って、予定をタイトに詰めずにのんびり構えることが多いです。たとえば、地方出張の帰りでも、夜までに家に帰れればいいと思えば、急ぐ必要がなくなりますよね。
安重先生
この辺りは、釣り番組に出演している村田基さんの弟がオーナーで、釣り人たちの聖地巡礼地としても人気なんです。他県ナンバーの車も多いんですよ。釣りをする人は、霞ヶ浦や利根川の分流に行く前に、ここでルアーを買ってから出発することが多いんです。この辺りは「水郷」とも呼ばれるエリアですしね。
鹿嶋の方には海も温泉もありますよ。
安重先生
クラウドファンディングを活用して観光地を盛り上げるというのは、なかなか面白いアイデアですね。
坂本社長
でもさっきの話からすると、そういう取り組みをしなくても十分裕福だからいい、今の生活で満足しているっていう人が圧倒的に多いんじゃないでしょうか。
澁谷社長
今の生活に不満がないなら、それ以上手を広げる必要はないと思いますし、それが正しい選択じゃないでしょうか。すでに満たされているのに更に求めるのは、時に環境を悪化させる原因になることもありますし。
ある程度のバランスは大切ですよね。自分が満たされているなら、余った分は他の人と分かち合う方がいいんじゃないでしょうか。それが日本人の昔ながらの価値観でもありますよね。
地元にネットワークを持っている人と出会えれば、その地域がもっと楽しくなりますよね。ただフラッと訪れて観光地だけを見て帰るだけだと、また行きたいとは思えないものですし。
その地域の人とつながりができると「また行きたいな」と思える。結局、人は物ではなく、人と人とのつながりを求めているんです。
沼田副住職
澁谷さんの会社のオンライン会議でもすごく緻密な議論が交わされているんですよね。
澁谷社長
僕の会社は同規模の同業者と去年グループ化して、今年の4月に正式に合併しました。
現在最後の大きな仕事として、別々だったサービスサイトを統合する作業を進めているんですが、このシステム統合が一番大変で、11月18日に予定しています。今は1ヶ月を切っていて、かなり緊迫した状況です。
そんな状況で中途半端な発言をしてしまうと、「社長、今さら何を言ってるんですか」と言われそうで、怖くてなかなか口を挟めないんですよね。
沼田副住職
社員は30代が中心ですが、大人の議論というか、国連の会議のように丁寧で洗練されていて。いろんな部門の方が参加していたんですけど、本当にドラマを見ているような会議でしたよ。
澁谷社長
普段はそんなこと特に意識していなかったんですが、沼田さんと話した後、第三者の視点で会議を聞いている気分になったら「うちの会社、ちゃんとしてるな」と改めて感じました。
沼田副住職
そんな議論の場に今自分が入れられたら、たぶんやられちゃいまいますね。社長だから突っ込まれずに済むかもしれませんが、突っ込まれる側の立場で会議に出るのは避けたいですよ。
澁谷社長
みんなからすごい質問が飛んでくるんです。しかも、ものすごく礼儀正しいんですよ。
「僕が提案した議論の趣旨が皆さんに正しく伝わっているか不安なので、もう一度ご説明させていただいてよろしいですか?」なんて言いながら、実は3か月前にも同じことを説明している内容だったりして。
「ここは指示を出してほしいです」と求められることも多くて、僕も悩みながら逃げられないなと思って指示を出しています。でも、本音を言えば、あまり関わりたくないシステムの話なんです。
沼田副住職
統合の話ですもんね。システム系なんて難しいですしね。
澁谷社長
システム関連の話は細かくて大変なんですよ。システムの中での問題があっても、それが業務全体に影響を及ぼしますから。
たとえば、システムを使ってオペレーションを行っている業務チームの責任者が意見を出すと、マーケティングチームがそれに反論してピリピリした空気になることもあります。どちらも引かない場合は、自分が出て行って調整するしかありません。
今日もそんな感じで真剣な議論が進んでいましたが、当人同士でなんとか決着がついていたのでホッとしました。
沼田副住職
いろんな部署がある中で、それを客観的に統括できるって本当にすごいです。
澁谷社長
いや、そんなことないですよ。全部をきちんとやろうと思うと本当に大変ですし、無理が出てきます。
専門部署の人たちが一生懸命やっていることに対して、それ以上の知識や判断を持てるわけではありませんから。何でも「完璧にやろう」と思えば思うほど、ミスが出てしまうものです。
沼田副住職
専門部署の人たちは皆、すごくしっかりされているんで、そういった方々をまとめたり調整したりするのを見ていて、「もう自分には現役には戻れないな」と改めて感じましたよ。
澁谷社長
普通の会社員の方も、プロの方も、その点では弁護士の先生に似ている部分があるかもしれません。
安重先生
そうですか?
澁谷社長
だって弁護士の先生も業務の中身まで細かく知っているわけではないので。双方の言い分を聞き分けて、法律や関係者の意見を踏まえながら「ここはこう分けるべき」とアドバイスする役割を担いますよね。そういう点では、社長業にも似た部分があると思います。
安重先生
確かにそうかもしれないです。
澁谷社長
仲裁に入る際も「ここまではあなたの責任で進めてください」とか「これ以上進めると相手の権利を侵害してしまうので、ここは譲ってください」といった形で、双方の主張を整理し、適切な線引きをする必要があります。
こうして考えると、弁護士の仕事と似た部分があるなと。
大崎
社長業も弁護士も決断力が大切ですね。
澁谷社長
決断力というか誰から見てもリーズナブルな落としどころってどこなんだろうって考えて、そこで落としてあげるっていう。
放っておくと、会社内で対立が深まり、組織が壊れてしまうこともあります。
たとえば、システム部署は「自分たちは間違っていない」という自信があり、一方でマーケティング部署は「お客さんの立場から見るとシステムが問題だ」と主張する。
どちらも間違っていないのに意見が対立している場合、社長が一段高い視点から解決策を示す必要があります。
僕は緊迫した雰囲気を感じると、「やばい!ここで笑いを取らなきゃ」と思うんです。一度場を和ませると、みんな落ち着いて議論を進めやすくなるんですよね。一旦場を和ませられたら、自分の主張ばかりじゃなくて相手のことを受け入れる気になるんじゃないですかって思ってます。
安重先生
それはいいですね。
澁谷社長
裁判では笑いを取ったりとかあるんですか?
安重先生
意外とありますよ。もちろん笑える事件と笑えない事件がありますから、ケースバイケースですけどね。信頼関係を築くことが重要なので、裁判前に場を和ませる発言をすることもあります。
ただ最近はオンラインでの打ち合わせが増えていて、対面よりも信頼関係を築くのが難しいんです。オンラインだと、言葉のキャッチボールや表情の微妙な変化がわかりづらくて、対面なら拾える「今目が泳いだな」とか「ちょっと表情が曇ったな」といった細かいニュアンスが拾えないんですよね。
沼田副住職
対面だと、なんとなく「今この人、嘘ついてるな」とかもわかるじゃないですか。
澁谷社長
沼田さんは細かいところをいつも見ていますよね。
金融の仕事は相手の嘘を見抜くことが大切ですから。「この数字、何かおかしいな」と思ったら直接会って「ここ、どうしてこうなっているんですか?」と説明を求めます。そのときの相手の表情がとても重要なんですよ。
一番わかりやすいのは、「ここを聞かれてしまったか」と一瞬焦る表情を見せたときですね。そういうときは、「あ、ここは嘘だったんだな」とすぐにわかります。
他にもいろいろなパターンがありますが、例えば「ここを聞かれるだろう」と用意していた内容を饒舌に話し始めた場合も、逆に嘘だとわかることが多いですね。
沼田副住職
IPOの審査の際、ここを聞かれたらまずいなと思う部分があれば、あえて2つの「穴」を用意しておくんです。審査官をその「穴」に誘導して一旦引っかからせておいて、「困ったふり」をしながら説明して何とか乗り切る。
次に別の「穴」が発見されても、そこに止めておけば大丈夫だ、という形で進めていくんですよ。
澁谷社長
戦略をそこまで立てなくても、うまく説明すれば写真一枚で上場ができたりするなんてこともあるし。
沼田副住職
ありますね。小さな居酒屋が「上場してどうするんだ」と言われながらも、会社案内の写真がとてもきれいで、それが大きな決め手になるなんてことも。
澁谷社長
そうなんですよね。審査官の心象って意外と重要で、「この会社を応援したい」と思わせるような印象づけができれば、審査が通りやすくなるんです。「アバタもエクボ」という言葉がありますが、そういう要素が大きいですね。社長が自分のことしか考えていないような会社だと、審査官も「この会社は嫌だな」と感じることがありますよね。そういう会社だと、小さなミスでも厳しく指摘されてしまいます。
一方で、「この会社はまだ荒削りだけど、日本のために成長させてあげたい」と思われるような会社であれば、多少の欠点には目をつぶってくれることもあります。どうしても、そういう部分はありますよ。
な」とかもわかるじゃないですか。
沼田副住職
審査官自身の感情ではなく、彼らなりの正義感が働いているんでしょうね。
東証には、上場企業を通じて社会に貢献するという役割があります。上場することで会社の知名度や信用度が上がり、資金が集まります。その結果、その会社が大きくなり、日本全体の発展や豊かさに寄与する。そういう目的があるんだと思います。
澁谷社長
例えば「このサービスで、こんなに困っている人たちを助けたいんです」と熱意を持って語る人であれば、応援したいと思いますよね。結局、そういうことだと思うんです。
坂本社長
今まで何件くらい上場に携わられたんですか?
澁谷社長
大和証券にいたころは、毎年10社ぐらいでしたね。
安重先生
上場に立ち会ったことのある税理士さん・会計士さんってめちゃくちゃ引っ張りだこになるんじゃないですか?
澁谷社長
確かに、上場が一般的になってくると、そういった経験を持つ人にお願いしたいというニーズは高まるでしょうね。
沼田副住職
テーマは「茨城県には美味しいものがあるのか」という話にしようと思っています。とりあえず写真を見て、みんなでなにを話すか考えましょう。キーワードは「茨城県は第3位」ってところですね。
澁谷社長
茨城って「茨城県」という枠を意識しなくても、その中のコンテンツ自体が知られている場所ですよね。
例えば「今日は茨城県に行こう」ではなく、「偕楽園に行こう」とか「ひたち海浜公園に行こう」という形で、直接目的地として認識されているんです。茨城県に行くという意識は、あまりないのかもしれません。
関東全体がそういう傾向にありますよね。例えば「地名度が低いランキング」に北関東がよく出てきますが、栃木・群馬・城に行く場合でも、「富岡製糸工場に行こう」とか「日光に行こう」という形で、目的地には県の名前が出てこないんです。
「宇都宮で餃子を食べに行こう」というような形で、それぞれのスポットが認知されれば十分じゃないですか。県自体が目立つ必要はなくて、中にある観光地やグルメが東京の人に認知されていれば、それでいいと思いますよ。
あとは、やっぱりご飯がおいしいことが重要ですね。
若い頃は海外に行って、どこへ行っても新しいものを見るのが楽しくて嬉しかったですよね。特にアメリカのようにエンターテインメントが派手な国は、若いうちにはとても魅力的に映るものです。
でも年齢を重ねるにつれて、アメリカに行っても美味しいものがないと足が向かなくなってくるんです。やっぱり、美味しいものがあるというのは大切ですよね。
アジアやヨーロッパは、料理が圧倒的に美味しい地域ですよね。だから、自然とそちらに行きたくなります。結局、グルメが一番人を引きつけるんですよ。
日本人も、バブルの時代に海外旅行に行くようになりましたよね。そもそもバブルが起こった背景には、円高があったんです。
1984年のプラザ合意をきっかけに、1ドル200円台だった為替レートが、急激に110円台と円高になった。その結果、海外旅行の費用もほぼ半額以下になったんです。日本人が気軽に海外旅行に行けるようになりました。
最初は「行ったことがない」というだけでどこへ行っても楽しかったんですよね。海外には見たこともない素敵なものがたくさんあると思って、あちこち旅しました。
でも海外に行ったことで、日本のグルメが一番おいしいと気付いたんです。外国人にもそう言われましたね。
実際に海外に行ってみないと、自分の国がどれだけおいしいものに恵まれているか気付かなかったんですよね。30年かけて海外で勉強した結果、やっぱり日本が一番いい場所だとわかりました。それは日本人だけでなく、外国人にも認識されるようになってきましたね。
ミシュランの星を持つシェフたちに「最後にどこで料理を作りたいか」というアンケートを取ったところ、9割が「日本」と答えたそうです。食材が豊富で、治安も良く、おいしいものを頻繁に楽しめる唯一の国だと評価されているみたいですね。
私の店のお客様にインドネシアの富豪がいらっしゃるんですが、そのご家族もユニークなんですよ。
親御さんがまだ現役で働いていて、息子さんは40代や30代なんです。その息子さんたちは、しょっちゅう日本に来るんですよね。その理由が「おいしいものを食べたいから」というのがすごい。ちょっと良い食事をしたいだけで、わざわざ日本まで来るんですよ。
小・中学校がスイスの寄宿舎の学校で、高校もスイス、フランスの大学に行って、卒業後はニューヨークに行った彼が、日本料理が1番おいしいですよって。日本はやっぱり良い国ですよね。
おそらく、日本に来る外国人観光客の半数以上は文化や観光目的と言いますが、実際はそのうち半分くらいが日本料理を楽しみに来ているんじゃないでしょうか。
坂本社長
おっしゃる通り、みんな県そのものではなく、その地域の具体的な魅力に引きつけられて行くわけですよね。
潮来、神栖、鹿嶋のエリアを「鹿行」と呼ぶんですが、おいしいものを食べるなら潮来、経済活動が盛んなのは神栖、文化や観光に触れるなら鹿嶋と、それぞれ特徴が異なり、互いに補い合っています。
「伊豆に行こう」と思ったとき、具体的にどこの場所かをあまり意識しないですよね。それと同じように、鹿行エリア全体の魅力をアピールしていきたいんです。
それぞれの地域が持つ弱点を補い合いながら、強みを前面に出して、「鹿行」というブランドを広め、このエリアに足を運んでもらえるよう誘導したいと思っています。
鹿行地域は珍しくまとまりのある地域なんですが、「鹿行」というエリア名自体は知名度が低いんです。でも、この「鹿行」のネームバリューが広がれば、地域創生に繋がるんじゃないかなと思っています。
澁谷社長
そもそも地域創生って、最終的なゴールが何なのか、よくわからないことがありますよね。その地域の人たちがどうなれば幸せを感じるのか、明確にわかっていないことも多いです。
例えば関市のような比較的大きな町でも、ここ数年で若い人が減ってしまい、地方創生が急務になっている地域もあります。
福岡にいたとき、長崎で地域創生を目指す人たちと話す機会があったんですが、長崎は観光地としては魅力的な町なのに、話を聞くと「このままでは人が住めなくなるかもしれない」と危機感を持っていました。
でも極端な話、人が住めなくなったら、住まなくてもいいじゃないかと思ってしまうこともありますよね。なぜそこに住み続ける必要があるのか、という根本的な問いが浮かんでしまいます。
だからそのとき地域創生について話していた人たちに「具体的にどうなれば成功だと思うんですか?」と聞いてみたんです。
「東京みたいになりたいのか?」「自分の町をどんなふうにしたいのか?」と尋ねても、意外と明確な答えが返ってこなかったんですよ。
「地域創生」という言葉だけが先行してしまい、具体的な目標が曖昧なんです。ただ漠然と「繁栄したい」「にぎやかになりたい」という感じで。「東京のように発展するのが理想なのか?」と聞くと、「そんなごちゃごちゃした町で自然がなくなるのは嫌だ」と言うんですよ。
私から見ると、こんなに地域のことを思って一致団結している仲間がいること自体が素晴らしいことだと思うんです。これ以上何を望む必要があるんですか?むしろ、こういう議論をしていること自体が楽しいじゃないですか、と言いたくなります。
突き詰めて考えていくと、地域創生をしなければ困るのは、結局のところ役場の税収だけなんじゃないかっていうところに行き着いてしまうんですよ。地域創生は、本当にみんなが真剣に考えなきゃいけないことなのか?っていうのがすごく疑問で。
だって、もし市から町に格下げされたとして、実際に困るのは税収の面だけですよね。
沼田副住職
お寺も困りますよね。私たちが一番危惧しているのは、人口減少による地域の衰退です。鹿島神宮や神社巡りなどの観光資源は豊富にありますが、子どもの数が減ると、それに比例して地域の仕事も減っていきます。
地元の人たちだけでは限られた収益しか得られないので、外部からの観光客や収入も取り入れて盛り上げていく必要があります。ただ、東京のような賑やかな都市にしたいわけではなく、人口を維持したいんです。若い女性が「住みたい」と思える地域にすることが、人口維持の一番のポイントだと思います。
東京のお店でも、若い女性が集まると自然と男性もついてきますよね。だから、まずは若い女性が「行きたい」「住みたい」と思う場所にすることが大事なポイントだと思います。
お店に人を呼び込むには、ターゲットを絞り込むことが重要です。東京には日本中から若い女性が集まりますが、東京に疲れた人たちに対して、ちょうどいい距離感の場所を作るのが大事です。
鹿行は自分の時間や居場所、リラクゼーションを確保でき、なおかつ東京にもすぐ行ける。このバランスが最高なんですよ。
逗子のように自然が豊かな場所が近くにあれば、東京に頻繁に出る必要もないですよね。行きたいときや必要なときに東京に行ける距離に住む方が、日常生活は豊かで快適だと思います。
逗子や鎌倉エリアの魅力は、地元のレストランが東京に匹敵するくらい高クオリティなことなんですよ。地域全体の生活の質や食のクオリティが高いというのは、私自身とても魅力的に感じます。
観光客もそのクオリティの高い食を目当てに訪れることが多いですから、地域の食文化の質を高めることは一つの重要なポイントだと思います。
質を上げるという点では、地域独自の魅力を持つレストランが重要ですよね。
イタリアやフランスのように、それぞれの地域が誇る食文化があれば、東京には勝てなくても「千葉市のレストランの方が素晴らしい」と感じてもらえる場所になるはずです。
鎌倉だって、横浜市内よりレストランの質が高いですよね。人口の話で言えば、若い女性をターゲットにするのがポイントだと思います。その女性たちにつられて、若い男性も自然と来るわけですから、それで良いんじゃないでしょうか。
美味しいレストランを作れば、地元の人たちが喜ぶだけでなく、観光客も集まります。それは結果的にプラスになるわけですから、良いことだと思いますよ。
地元の人が「この街が好きで住み続けたい」と思えるような街づくりが、地域創生の一番の基本です。その上で、観光客も自然と「来てみたい」と思うような街になれば、それで十分成功だと思います。
鎌倉の人口は今、高止まりしていると言われていますが、それでも約9万人の人が住んでいます。ただ、住民が多い割に、食事の場としてはチェーン店が多い印象ですね。都心並みにクオリティの高い飲食店は数えるほどしかありません。
鎌倉は板子(江ノ島や湘南方面)に近いので、「ここに来ればおいしいものがある」という魅力が共存しているんですよね。
それに比べて、鹿嶋は正直あまり美味しいお店が多いとは言えないので、みんな鹿嶋から潮来(いたこ)や近隣の別のエリアに行ってしまうんです。そういう弱点をカバーするためには、市町村の枠にこだわらない方が良いと思うんです。
テレビでもよく取り上げられる熱海の復活劇は、もちろんそれだけが成功の要因ではありません。ただ、今の熱海は若い女性に人気のエリアになっています。
街全体でスイーツの食べ歩きが楽しめる仕組みができていて、その結果、街全体に人の流れが生まれ、商店街も活性化しているんです。
東京から近くてアクセスが良い分日帰り圏内になってしまうデメリットもありますが、スイーツを軸にすれば、食事だけでなく様々な場所を楽しむきっかけを提供できるという狙いが成功しています。
私たちも鹿行エリアの弱点をしっかり理解して、それに合った具体的な施策を考えれば、もっと魅力的な地域にしていけるのではないかと思っています。